一般的に①管理費及び②修繕積立金を「管理費等」と言っていますが,これは標準管理規約第25条の規定によるもので,法律上の明確な定義はありません。
他方,建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)は,
について,特別の保護(先取特権及び特定承継人による支払義務の承継)を与えています(区分所有法第7条及び同第8条)。
多くの管理組合において,管理費及び修繕積立金については,規約または集会決議により定められていると思われます。したがって,通常は上記の2に当たりますし,仮に規約や集会決議によって定められていなくても,「共用部分等につき他の区分所有者に対する債権」として上記の1に当たると考えられます。
区分所有法第7条は,管理費等について先取特権を認めています。
先取特権とは,債務者の一定の財産から優先弁済を受けることのできる法定担保物権であり,管理費等については,債務者の①区分所有権及び②建物に備え付けた動産の上に先取特権を有するとされています。区分所有法第7条に定められた先取特権であることから,「7条先取特権」と呼ばれています。
管理費等の滞納者に対して先取特権を行使する場合,債務名義がなくとも直ちに競売申立て(担保不動産競売)をすることができます。もっとも,抵当権者など登記のある担保物権には劣後することとされているため,住宅ローンなどでオーバーローンとなっている物件の場合,区分所有権の競売による配当見込みが無く,競売手続は無剰余取消しとなってしまいます。管理費等を滞納している場合,住宅ローンの返済に行き詰まっている場合も多く,先取特権実行による競売が困難な場合も多いと思われます。
また,建物に備え付けた動産(冷蔵庫やエアコンなどが想定されます)についても,多くの場合が生活必需品であり,法律上の差押禁止財産とされているため,先取特権の実行による競売が困難である場合が多いと思われます。
したがって,7条先取特権の実行は,実際には実効性に欠ける場合が多いのではないかと思われます。
区分所有法第8条は,管理費等の支払義務について区分所有権の特定承継人が引き継ぐ旨を定めています。
特定承継人とは,区分所有権を個別に取得した者のことで,売買や贈与によって区分所有権を取得した者がこれに当たるほか,競売手続によって区分所有権を競落した者(競落人)も特定承継人に当たるとされています(他方,相続によって区分所有権を取得した者を包括承継人といいます)。
管理費及び修繕積立金の支払義務を特定承継人が引き継ぐことは法律上明らかですが,駐車場使用料,インターネット使用料などの支払義務を特定承継人が引き継ぐか否かは見解が分かれており,具体的な事情のもとで個別に判断されることになると思われます。
区分所有者が共同の利益に反する行為を行った場合,またはその行為をするおそれがある場合であって,共同生活上の障害が著しく,他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき,当該区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができます。
この競売請求は,区分所有法第59条によって認められた特別の制度であり,一般的に条文番号を取って「59条競売」と呼ばれています。
滞納管理費等の回収を目的とする59条競売も,状況によっては認められることがあり,最後の手段として検討されることがあります。
通常の不動産強制競売(担保不動産競売)の場合,無剰余取消しによって競売が困難なケースもありますが,59条競売の場合,剰余主義の適用がない(無剰余であっても手続が取り消されない)と解されており,この点が大きな特色となっています。
59条競売は,対象者の区分所有権を強制的に剥奪する手続であり,区分所有者に著しい不利益を与えるものであるため,非常に厳格な要件が定められています。
具体的には,
具体的には,滞納期間が相当長期,何度督促しても支払わない,支払い意思を全く示さない(敵対的態度を示している),滞納による実害が生じている(必要な改修工事ができないなど)等の事情が必要とされます。
他の方法によっては他の区分所有者の共同生活の維持を図ることができないこと
具体的には,他の方法では回収不可能(他の強制執行が功を奏しなかった),今後の支払可能性がない(著しく低い)等の事情が必要です。
が要件となります。
59条競売については,実体的要件だけでなく形式的(手続的)要件も厳格になっています。
具体的には,
が要件となります。
59条競売については肯定した例,否定した例など様々な裁判例の蓄積がなされているところですが,特に厳格な判断をした例として東京地裁平成18年6月27日判決[判例時報1961号65頁]をご紹介します。
事案の概要は,滞納期間は約5年半(この間の支払請求に対して全く対応せず),滞納額は約170万,不動産強制執行は先順位抵当権者(住宅ローン債権者と思われる)の存在により無剰余取消しが見込まれる状況,預金に対する強制執行は不奏功(残高なし)というものでした。
これに対し,東京地裁は,以下のように述べて,59条競売請求を棄却しました。
「被告に対する債権回収の方策として,預金債権以外の債権執行の余地がないかについては明らかとはいえず,未だ本来の債権回収の方途が尽きたとまでは認められない。さらに、被告は、本件訴訟の第2回口頭弁論期日に出頭し,陳述した準備書面において,長期間にわたる管理費の滞納を謝罪するとともに,経済状況が好転したことから本件管理費等の分割弁済による和解を希望する旨の態度を示しているのであって,このような被告の態度からすれば,原告が和解案として,まず被告に対して分割弁済の実績を示すことを要求するなどして,和解の中で本件管理費等を回収する途を模索することも考えられるところ,原告は被告の和解の希望を拒否して,同法59条1項による競売の途を選んだといえる。このような状況からすれば,本件において,原告には,同法59条1項による競売申立て以外に本件管理費等を回収する途がないことが明らかとはいえないというべきであり,同条項所定の上記要件を充足すると認めることはできない。」
この事案では,滞納者が59条競売請求訴訟の中で分割弁済による和解を希望したのにもかかわらず,管理組合側が全く交渉に応じようとしなかった点が考慮されたものと考えられます。
滞納管理費等の支払いを促す目的で,滞納者に対して精神的圧迫を加えるための制裁措置を検討されるマンション管理組合もあると思いますが,そのような制裁措置が逆に違法との評価を受ける場合がありますので,弁護士等に相談しながら慎重に対応する必要があります。
電気,ガス,水道などのライフラインを止められれば,当該区分所有者は生活することが事実上困難な状態となるため,滞納管理費等の支払いを促す方法として有効なようにも思われます。
しかし,このような措置は,滞納者が被る不利益があまりにも甚大であり,また,通常は管理費等の支払いとの関連性(対価性)がないと考えられるため,原則として違法と判断されるものと思われます。実際に管理組合に対して慰謝料の支払いを命じた裁判例もあります。
滞納者の氏名をマンションの共用掲示板等に掲示するなどして公表することは許されるでしょうか?
一般的に管理費等を滞納している事実は,滞納者にとっては不名誉な事実であり,場合によっては経済的に困窮している事実を推知させるものと言えます。したがって,滞納者の氏名を公表することは,原則としてプライバシー侵害または名誉棄損に該当するものと考えられ,違法と評価される可能性が高いものと思われます。
管理組合が弁護士に依頼して滞納管理費等の回収を行う場合,それに要する弁護士費用を滞納者に対して請求できるでしょうか?
一般的に,債務者の債務不履行に関して債権者が負担した弁護士費用について,債務者に対して請求することはできないと考えられています。
しかし,マンション管理規約に「違約金としての弁護士費用」を請求できるとする規定が置かれている場合,滞納者に対して弁護士費用を請求できると解されています。
この点につき,標準管理規約第60条第2項には,「組合員が・・・期日までに納付すべき金額を納付しない場合には,・・・違約金としての弁護士費用・・・を加算して,その組合員に対して請求することができる」と明記されています。
他方,マンション管理規約に「違約金としての弁護士費用」に関するルールが定められていない場合,滞納者に対して弁護士費用を請求することはできないと考えられます。
ご相談の予約、ご不明な点のお問い合わせは、
お電話またはお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。
おひとりで悩まず、お気軽にご連絡ください。
お問い合わせ・ご相談予約はこちらの電話番号へ
086-201-7830
電話受付時間:月〜金 9:00〜12:00 / 13:00〜18:00
定休日:土曜・日曜・祝祭日
弁護士法人VIA
にしがわ綜合法律事務所
086-201-7830
〒700-0901
岡山市北区本町3-13
イトーピア岡山本町ビル9階
岡山駅東口 徒歩5分
(近隣に駐車場あります)
弁護士紹介はこちら
事務所概要はこちら
事務所地図・アクセス
岡山市,倉敷市,津山市,
玉野市,笠岡市,高梁市,
総社市,赤磐市,備前市,
瀬戸内市ほか岡山県全域,
広島県福山市などの近隣地域
(県外の方であってもご来所が可能であれば対応いたします)