就業規則は,労働条件を画一的に設定し,かつ労働者に対して職場規律を明示するために使用者が定める規則です。
労務管理を適正かつ適法に行うことができるかどうかは,就業規則がきちんと整備されているかどうかにかかっていると言っても過言ではありません。
同じ事業場において常態として10人以上の労働者を使用する使用者には,労働基準法によって就業規則を定めることが義務付けられています。
すなわち,労働者が10人未満の事業場には,就業規則作成義務は課されていません。しかし,たとえそうであっても,労務管理を適正かつ適法に行うためには,就業規則が不可欠であるといえます。
従業員とのトラブルは企業活動において避けられないことですが,就業規則をきちんと整備しておくことにより,最大限有利な解決を図ることが可能となります。
具体的には,従業員からの残業代請求や従業員の解雇といった場面において,就業規則の定めが効いてくるのです。
法律によって定められた必要的記載事項を記載する必要があります。
法律上は同意まで要求されているわけではありませんが,反対意見が出た場合は,十分に理解を得る必要があるでしょう。
当該事業場を管轄する労働基準監督署の署長あてに届出をします。
事業場の見やすい場所に掲示したり,従業員に対して交付するなどして,周知しなければなりません。
就業規則には,必ず就業規則で定めなければならない事項(絶対的必要記載事項)と,制度を設けている場合には必ず記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)があります。
懲戒処分とは,労働者の服務規律違反や秩序違反に対する制裁罰として,使用者が一方的に労働者に対して行う不利益措置です。
使用者が労働者に対して懲戒処分を行うためには,就業規則において懲戒事由及び処分の具体的内容(種類・程度)を定めておき,労働者に周知することが必要です。
もっとも,労働者の対象行為の性質および態様などに照らして,不釣り合いな懲戒処分を行った場合など,社会通念上相当なものといえない懲戒処分は,懲戒権の濫用であり無効となります。
「懲戒処分」として,以下のものが就業規則に規定されていることが多いです。
通常は,1→6の順番で段階的に重い処分とされています。
「懲戒事由」には,各企業の性質に合わせて,多種多様なものがあります。主なものとして,以下のものが就業規則に規定されていることが多いです。
一般的に労働者が企業への入社を希望する際には,学業・職業・病歴等の履歴を記載した履歴書・職務経歴書を提出するなどして,当該企業に対して自己の経歴を申告していると思われます。
そして,多くの就業規則において,労働者が入社時に経歴を詐称していた場合を懲戒事由としています。
ただし,少なくとも懲戒解雇事由に該当するのは,「重大な経歴詐称」に限られると解するのが一般的です。裁判例の中には,重大な経歴詐称の意義について,「一般的に,その経歴詐称が事前に発覚すれば,会社がその労働者と契約を締結しなかったか,少なくとも同一条件で契約を締結しなかったと認められ,かつ,客観的にみてもそのように認めるのが相当な場合」をいうと判示したものが見られます。
重大な経歴詐称に当たり得るものとしては,高卒を大卒と詐称していた場合(学業の経歴詐称),ソフトウェアの研究開発及び製作会社に入社するに際しプログラミング能力を詐称していた場合(職業の経歴詐称。東京地判平成16年12月17日)などのほか,近年では,病歴や退職歴についても,場合によっては重大な経歴詐称に当たり得るものと考えられます。
無断欠勤・遅刻等の職務懈怠は,通常の場合,労働者の単なる債務不履行であり,それだけで企業秩序を乱すものとは言えませんので,本来は,使用者による指導・監督権限あるいは管理権限(人事権)によって対応すべき問題と考えられます。
したがって,どれほど悪質であっても「債務不履行」の範囲にとどまる限り,原則として懲戒対象とはなりません。
もっとも,企業においては,多数の労働者が集団的・組織的に労務の提供を行うため,一人の労働者の職務懈怠が,他の従業員の士気に悪影響を及ぼすなど企業秩序を乱す場合もあります。
そこで,単なる債務不履行の範囲にとどまらず,企業秩序を乱すと言える特別な事情がある場合には,職務懈怠も懲戒の対象になるものと考えられます。
使用者は労働者に対する管理・監督権限を有していますので,使用者による正当な管理・監督上の業務命令に対し,労働者が理由なく違反すれば,懲戒事由に当たる可能性があります。
使用者による管理・監督上の命令としては,日常の業務に関する指導・指示,時間外労働命令,有給休暇時季変更命令,職種変更命令,転勤命令などがあります。
これらの命令に対する違反が懲戒事由となるか否かは,①使用者による当該命令が労働契約の範囲内のものであり,かつ正当なものであるか,②労働者がその命令に服しないことにやむを得ない理由があるかといった点を考慮して判断されることになります。
例えば,転勤命令の場合であれば,使用者が就業規則ないし労働契約上労働者に対する転勤命令権を有していると認められる場合であっても,①当該転勤命令の業務上の必要性の程度,②当該命令の動機・目的(不当なものではないか),③労働者にとって通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものかといった点が考慮されます。
労働者が争議行為や組合活動をすることは,憲法によって保障されていますので,それが正当なものと認められる限り,それが懲戒事由に当たることはありません。
しかし,逆に,当該争議行為や組合活動が,正当な範囲を超え違法なものである場合,当該労働者の果たした役割に応じて懲戒処分をすることも認められます。
例えば,当該争議行為が,いわゆる政治ストである場合において,使用者に対する経済的地位の向上の要請とは直接関係のない政治的目的のための争議行為を行うことは,憲法28条の要請とは無関係であるとして出勤停止処分を有効とした判例があります(最判平成4年9月25日)。
職場規律違反の代表的なものとして,職場における刑事犯罪行為があります。
会社の管理にかかる物品の窃取(窃盗罪),旅費や通勤費の不正受給(詐欺罪),業務上管理している金銭の横領(業務上横領罪)などが典型的なものです。
このような行為は,極めて背信性が高く,被害金額が僅少で回数も僅かといったような特別な事情がない限り,懲戒解雇事由に該当すると考えられます。
もっとも,対象者が事実関係を争っている場合など,解雇後のトラブルが予測される場合には,解雇後の紛争を回避する観点から,普通解雇や退職勧奨によることが望ましいケースもあり得るでしょう。
セクシュアル・ハラスメント(いわゆる「セクハラ」)は,職場規律違反として懲戒事由に当たる場合があります。
一般に「セクハラ」と呼ばれているものの中にも,刑法犯に当たる行為,刑法犯には当たらないが民法上の不法行為には当たる行為,民法上の不法行為には当たらないが男女雇用機会均等法上のセクハラに当たる行為など,様々なものがあります。
従業員よりセクハラの訴えがあった場合,使用者は必要な範囲で社内調査を行う必要があります。しかし,当事者間の言い分が食い違っている場合,事実認定が困難な場合もあります。このような場合には,法律専門家の助言,法的支援を受けながら対処するのが望ましいと思います。
パワー・ハラスメント(いわゆる「パワハラ」)は,職場規律違反として懲戒事由に当たる場合があります。
セクハラの場合と同様,一般に「パワハラ」と呼ばれているものの中にも,暴行・傷害などの刑法犯に当たる行為,労働者に対して殊更に精神的苦痛を与えるようなひどい暴言を浴びせた場合などの刑法犯には当たらないが民法上の不法行為には当たる行為など,様々なものがあります。
一方,セクハラの場合と異なり,パワハラには法律上の定義がありません。
ただし,厚生労働省は,パワハラについて「同じ職場で働く者に対して,職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて,精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」をいうものと定義しています。
パワハラの認定において難しいのは,「厳しい教育・指導」との境界線が明確でない場合があり得るということです。
暴行・傷害などの刑法犯に及ぶ場合は論外ですが,限界事例においては,行為の動機・目的の正当性,手段の正当性などの観点から,社会通念上,教育・指導の範囲にとどまる行為と言えるかどうかを判断することになります。
従業員による私生活上の行為は,基本的に企業秩序の維持とは無関係ですので,私生活上の非行について懲戒処分をすることは原則としてできません。
ただし,従業員による私生活上の行為が事業活動に直接関連すると認められる場合や,当該行為が企業の名誉・信用が毀損されるおそれのある行為である場合には,例外的に懲戒処分の対象とすることが認められる場合があります。
事業活動に直接関連するため,懲戒処分が有効とされやすい傾向にあるものとして,タクシー会社やバス会社など旅客運送業者の従業員(運転手)が勤務時間外に飲酒運転をした場合を挙げることができます。
会社の名誉・信用が毀損されるおそれのある行為に関しては,「必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが,当該行為の性質,情状のほか,会社の事業の種類・態様・規模,会社の経済界に占める地位,経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して,右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない」との判断基準が示されています(最判昭和49年3月15日・民集28巻2号265頁)。
一般的に,従業員は,使用者との労働契約に付随する義務として,「企業秘密」を漏らしてはならないという義務を負っています。
したがって,正当な理由なく企業秘密を洩らした場合,懲戒処分の対象となる場合があります。
もっとも,「企業秘密」は法律上の概念ではなく,いかなる情報が「企業秘密」に当たるのかについては,判断が難しい場合もあります。
どのような情報を「企業秘密」として漏洩禁止の対象とするのかについては,就業規則上でできる限り特定しておくのが望ましいでしょう。
「企業秘密」には,企業にとって有益な情報だけでなく,企業や従業員の不祥事等の不利益な情報も含まれます。
なお,「企業秘密」は,不正競争防止法上の「営業秘密」よりも広い概念であり,「営業秘密」とは異なる概念ですので注意が必要です。
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