このうち,①経済的損害は,
に分類できます。
積極損害とは,簡単に言うと,「事故によって現実に支払うこととなったお金」のことであり,治療費などがこれに当たります。
消極損害とは,簡単に言うと,「本来得られるはずだったにもかかわらず,事故によって得られなくなってしまったお金」のことであり,休業損害や後遺症による逸失利益がこれに当たります。
そして,②精神的損害に対する賠償が,いわゆる
必要かつ相当な実費全額が認められます。
ただし,診療の医学的必要性・合理性が認められなかったり,診療に対する報酬が高すぎる場合には,認められない場合があります。
また,鍼灸,マッサージ費用,カイロプラクティック治療代などについては,そのような治療が有効かつ相当な場合には認められる可能性があります(医師の指示があるかどうかが一つのポイントとなります)。
医師の指示がある場合,個室を必要とするほど症状が重い場合,空室がないためやむを得ず個室を利用せざるを得なかった場合などには認められる可能性があります。
医師の指示がある場合,ケガの程度や被害者の年齢などから付添いが必要と認められる場合には,認められる可能性があります。
職業付添人を頼んだ場合には実費全額,家族が付添人となった場合には,1日あたり原則6500円(日弁連基準≒裁判所基準)が損害として認められます。
ケガの程度や被害者の年齢などから付添いが必要と認められる場合には,認められる可能性があります。
この場合,1日あたり原則3300円(日弁連基準≒裁判所基準)が損害と認められます。
交通事故のケガによる障害のため,将来にわたって介護の必要が生じてしまうケースもあります。介護が必要と認められることの多い代表的な障害として,遷延性意識障害・高次脳機能障害などの脳機能障害,脊髄損傷などの場合があります。通常は,後遺障害等級1級や2級などの重度後遺障害の場合ですが,ケースによっては3級以下の場合にも認められる可能性があります。
医師の指示がある場合や症状の程度に照らして介護の必要性があると言える場合には,介護費が損害と認められます。
一般的には,職業付添人の場合には実費全額,近親者付添人の場合には1日当たり8000円とされますが,具体的な状況によって増減することがあります。
入院中に必要な雑費(タオルや着替え代)として,1日あたり1500円(日弁連基準≒裁判所基準)が損害として認められます。
公共交通機関を利用した場合,合理的経路といえる限り,全額が損害として認められます。
タクシーの利用料金については,タクシーを利用することがやむを得ない事情があれば認められる可能性があります。
自家用車を利用した場合には,ガソリン代として実費相当額(1キロ当たり15円程度)が認められます。
義歯,義眼,義手,義足,眼鏡,コンタクトレンズ,車いす,電動ベッドその他の介護用器具については,必要性があると認められれば全額について認められる可能性があります。
ケガの内容や程度,後遺症の内容や程度によって必要性があるといえる場合には,相当額が認められる可能性があります。車いす利用が必要となったためにスロープを設置する場合やトイレ・バスを改造する場合などが典型例です。
原則として150万円(日弁連基準≒裁判所基準)が認められます。ただし,実際に支出した額がこれを下回る場合には,実際に支出した額のみ認められます。
なお,香典については下記で説明する損益相殺の対象としない代わりに,香典返しにかかった費用は,損害と認められません。
診断書作成料などの文書料,交通事故証明書の発行手数料などが,必要かつ相当な範囲で認められます。
事故の影響によって成年後見人等を選任せざるを得ない状況になった場合,成年後見開始の審判手続費用,後見人報酬など必要かつ相当な範囲で認められます。
裁判所によって認められた損害額の10%程度が損害として認められます。
損害額に対する事故発生日から支払いまで年3%分の遅延損害金※が損害と認められます。※民法改正により,法定利率は3年毎に変動することになっています(令和2年4月1日施行)。
損害額が大きく,裁判に長く時間がかかった場合には,遅延損害金だけでも大きな額となる可能性があります。
休業損害とは,交通事故の被害者がケガの治療のために,仕事を休まざるを得なかったり,十分に働くことができなかったために生じた「現実の収入減」のことです。
休業損害は,
1日の基礎収入額×休業期間
という計算式によって算定することができます。
休業損害及び逸失利益を算定する際の基礎となる基礎収入は,理論的には「事故前年の実収入」とするのが原則となります。
ただし,比較的若年の被害者(概ね30歳未満)で,生涯を通じて全年齢平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が認められる場合には,賃金センサスの学歴計または学歴別・全年齢平均賃金を基礎収入とする場合があります(いわゆる三庁共同提言)。
実際には,被害者の属性(給与所得者,事業所得者,会社役員,家事従事者,未就労の幼児・児童・生徒・学生など)によって考慮事情が異なってきます。
給与所得者の基礎収入額は,
事故前3ヶ月間の給与の合計額÷実際の稼働日数
という計算式によって算定することができます。ただし、休業の仕方によって休日を含んだ一定期間の平均日額を基礎収入とすることもあります(詳しくは弁護士にお問い合わせください)。
会社(または雇用主)から,休業損害証明書(または源泉徴収票)を発行してもらいましょう。
事業所得者の基礎収入額は,
などによって算定されます。
ただし,休業損害の算定に当たって,いわゆる「固定経費」(例えば,家賃,人件費など)については,所得に加算して計算することが認められる場合もあります。
確定申告をしていない場合や過少申告をしていた場合で,平均賃金を得られる蓋然性があると認められる場合は,賃金センサスによって算定されることがあります。
会社役員が会社から受け取る役員報酬は,労務提供対価部分と利益配当部分から構成されると考えられており,休業損害に関して賠償額算定の基礎となる基礎収入は,労務提供対価部分に限られると考えられています。
実際には,役員報酬額,企業規模,執務状況,その他の事情を総合的に考慮して個別に判断されることになります。
家事労働は,現実の収入を生み出すものではありませんが,最高裁判所は,家事労働を金銭的に評価することを認めています。一人暮らしの方の場合など,家事労働が単に自己の生活のためのものである場合には,休業損害とは認められません。
家事従事者の基礎収入は,女性労働者の学歴計・全年齢平均賃金によって算定されます。ただし,概ね60歳以上の家事従事者の場合,年齢別平均賃金を用いたり,状況に応じて平均賃金より減額した基礎収入が認定される場合もあります。
なお,有職の家事従事者(いわゆる兼業主婦)の場合,給与所得が平均賃金を超える場合には給与所得を基礎とし,給与所得が平均賃金以下の場合は平均賃金を基礎とするのが通常です。
また,休業期間については,実際の症状,家事労働への影響の程度に鑑みて,個別に算定していくことになります。
未就労の幼児・児童・生徒・学生の基礎収入については,男女別・学歴計・全年齢平均賃金が基礎収入と認定される場合が多いのですが,平均賃金の男女間格差の問題があります。すなわち,実際には,女性の方が多額の収入を得る場合も少なくないにもかかわらず,女子が交通事故の被害者となった場合について,一律に男性の平均賃金よりも大幅に低い女性の平均賃金しか基礎収入として認定できないのは問題ではないかと言われているのです。
そこで,近時の下級審裁判例では,男子を含めた全労働者(男女計)学歴計・全年齢平均賃金を基礎とするものが多数見られるようになっています。ただし,全労働者の平均賃金を基礎収入として採用されるのは,被害者が中学生程度までのケースが多いようです。
逸失利益とは,「交通事故の後遺障害によって労働能力が低下したため,本来得られるはずであった利益を得られなくなったことによる損害」のことです。
後遺症による逸失利益は,
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間×中間利息控除係数
という計算式によって算定することができます。
休業損害の場合とおおむね同様の考え方となります。
労働能力喪失率とは,「労働能力の低下の程度」のことです。一般的には,自賠法2条別表記載の後遺障害等級表によって認定されます。
同表によると,労働能力喪失率は,後遺障害等級によって,おおむね以下のとおりとされています。
第1級 | 第2級 | 第3級 | 第4級 | 第5級 | 第6級 | 第7級 |
---|---|---|---|---|---|---|
100% | 100% | 100% | 92% | 79% | 67% | 56% |
第8級 | 第9級 | 第10級 | 第11級 | 第12級 | 第13級 | 第14級 |
45% | 35% | 27% | 20% | 14% | 9% | 5% |
労働能力喪失期間は,原則として「症状固定日」から「満67歳」までの期間とされます。ただし,症状固定時から67歳までの年数が平均余命の2分の1よりも短くなる場合は,平均余命の2分の1が労働能力喪失期間とされる場合があります。
※未就労者の場合には,「18歳(大学卒業を前提とする場合は大学卒業時)」からとされるのが一般的です。
※いわゆるむちうち症の場合は,12級相当の場合で5年~10年に,14級相当の場合で5年以下に制限される場合が多いと言えます。
逸失利益に対する損害賠償の場合,将来長期間に渡る収入減少に対する賠償金を,現在において一括して受け取ることになるため,将来(現実の損害が発生するまでに)発生することになる利息(中間利息)を差し引いて計算し,将来の賠償額を現在の価値に換算するという作業が必要になります。
中間利息控除係数には,複利計算方式によるライプニッツ係数と単利計算方式によるホフマン係数がありますが,ライプニッツ係数を用いるのが通常です(ただし,最高裁判例はホフマン係数の採用も排除していません)。
例えば,労働能力喪失期間が5年の場合のライプニッツ係数(年金現価表)は「4.5797」,労働能力喪失期間が10年の場合のライプニッツ係数(年金現価表)は「8.5302」となります。
後遺障害の等級認定が受けられた場合であっても,後遺障害の部位・内容によって,類型的に労働能力喪失の有無ないし程度が問題となるケースがあります。よく問題となるのは以下のケースの場合です。なお,労働能力喪失によって直接的に影響を受けるのは,将来の逸失利益であり,慰謝料には直接的な影響はありません。
認定された後遺障害が,上記のいずれかによる場合,類型的に労働能力が喪失したとまでは言えない,あるいは労働能力の喪失の程度が同じ等級の他の後遺障害と比較して低いと認定される可能性があるため,性別,年齢,職業,症状,減収の有無などを慎重に考慮して,実際の労働能力喪失の有無ないし程度を検討する必要があります。
交通事故で亡くなられたため,本来労働によって得られるはずであった収入が得られなくなってしまったことによる損害のことです。
死亡による逸失利益は,
基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
という計算式によって算定することができます。
生活費控除率は,「被害者が死亡したことにより,本来支出されるはずだった被害者の生活費の支出を免れるという利益」を賠償額から控除するために賠償額の計算上用いられる割合のことです。
生活費控除率は,おおむね次のとおりとされています(具体的な事情に応じて増減することがあります)。
被害者が一家の支柱の場合 | 被扶養者が1人の場合 | 0.4 |
---|---|---|
被扶養者が2人以上の場合 | 0.3 | |
被害者が女性の場合(主婦,独身,幼児等の場合) | 0.3 | |
被害者が男性の場合(独身,幼児等の場合) | 0.5 |
高齢者の死亡事故の場合,年金の逸失利益性が問題となる場合があります。
一般論としては,専ら受給権者自身の生計の維持を目的とする給付ではなく,年金保険料の支払いと年金給付の間に対価関係があり,将来の給付が確実と認めらる年金については,逸失利益性が肯定されます。
最高裁は,老齢年金及び障害年金の逸失利益性を肯定する一方(ただし,障害年金の加給分については否定),遺族年金の逸失利益性を否定しています。
逸失利益性が肯定された場合も,生活費控除率は通常よりも高め(6割程度)に設定される場合が多いと言われています。
交通事故によって精神的苦痛を受けたことによる損害については,「慰謝料」の請求が認められます。
慰謝料には,大きく分けて,
の3種類があります。
慰謝料の額は,本来,裁判官が色々な事情を考慮して妥当な金額を自由に定めることができるのですが,交通事故による精神的損害に対する慰謝料の額については,金額の定額化が進められています。
文字通り,被害者の方が亡くなられた場合に請求できる慰謝料です。
日弁連基準(≒裁判所基準)による慰謝料の額はおおむね以下のとおりです(事案によって増減します)。
被害者が一家の支柱の場合 | 2800万円 |
---|---|
被害者が一家の支柱に準ずる場合 | 2400万円 |
その他 | 2000万円~2200万円 |
※被害者が一家の支柱に準ずる場合とは,家事の中心をなす主婦や養育を必要とする子を持つ母親などの場合を意味します。
原則として入通院期間を基礎として定められます。
損害保険会社が提示する示談案には,「期間」ではなく,「実通院日数」によって算定したものが散見され,注意が必要です。
ただし,他覚症状のないむち打ち症の場合は,「通院期間」を限度として,実通院日数の3倍程度を目安とすることがあります。
後遺障害の等級を基礎として定められます。
日弁連基準(≒裁判所基準)による慰謝料の額は,おおむね以下のとおりです(事案によって増減します)。
第1級 | 第2級 | 第3級 | 第4級 | 第5級 | 第6級 | 第7級 |
---|---|---|---|---|---|---|
2800万円 | 2370万円 | 1990万円 | 1670万円 | 1400万円 | 1180万円 | 1000万円 |
第8級 | 第9級 | 第10級 | 第11級 | 第12級 | 第13級 | 第14級 |
830万円 | 690万円 | 550万円 | 420万円 | 290万円 | 180万円 | 110万円 |
交通事故の賠償金が減額される理由には,
などがあります。
交通事故が発生した経緯で,被害者側にも落ち度がある場合には,その落ち度の程度によって,「過失割合」が決定されることになります。
この場合,賠償額が一定の割合で減額されることになり,このことを「過失相殺」と呼びます(民法722条2項)。
現在,東京地裁民事交通訴訟研究会編「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(判例タイムズ社)という書籍が出版されており,裁判所もこの書籍に掲載されている基準を参考にして過失割合を判断しているのが現在の実務です。
保険会社もこの本に掲載されている基準を参考にして,示談案を提示しているのが通常ですが,裁判所が保険会社の認定した過失割合に拘束されるわけではありません。
また,この書籍に掲載されている交通事故のケースのみで全ての事件を処理できるわけではなく,この書籍に掲載されているケースの中に直接あてはまるものがない場合には,似ているケースを参考にして決定されることになります。
自賠責保険の場合,以下の表に記載したとおり,被害者の過失割合が70%以上の場合に限り,賠償金が減額されることになります。
被害者側の過失が重大な場合には,相手方に対して請求できる賠償金額よりも自賠責保険に対して請求できる金額が高額となる場合があります。
たとえば,被害者の過失が80%の場合であっても,自賠責保険金の減額割合は3割にとどまりますので,ベースが自賠責基準による賠償金であっても,本来の賠償金から8割減額された場合(相手方に請求した場合)よりも高額となることがあるのです。
被害者の過失割合 | 減額割合 | |
---|---|---|
後遺障害・死亡の場合 | 傷害の場合 | |
7割未満 | 減額なし | 減額なし |
7割以上8割未満 | 2割 | 2割 |
8割以上9割未満 | 3割 | |
9割以上10割未満 | 5割 |
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