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過払い金請求入門

利息制限法と過払い金返還請求

利息制限法は、以下のとおり、金銭消費貸借契約における利率の上限を規定しています。

<第1条>金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。

  1. 元本の額が十万円未満の場合、年二割
  2. 元本の額が十万円以上百万円未満の場合、年一割八分
  3. 元本の額が百万円以上の場合、年一割五分

したがって、元本額に応じて決定される上記の利率によって計算される利息を上回る利息を支払った場合、「利息の払い過ぎ」の状態となります。

現在では、

  1. 払い過ぎた利息を元本に充当できる
  2. 元本に充当した結果、元本の完済に至った場合にこれを不当利得として返還請求できる

ということについては、確定した最高裁判例となっていますが、これには長い裁判の歴史があります。

最大判昭和39年11月18日

判示

債務者が,利息制限法(以下本法と略称する)所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息・損害金を任意に支払ったときは,右制限をこえる部分は民法419条により残存元本に充当されるものと解するを相当とする。

債務者が利息,損害金の弁済として支払った制限超過部分は,強行法規である本法1条,4条の各1項により無効とされ,その部分の債務は存在しないのであるから,その部分に対する支払は弁済の効力を生じない。従って,債務者が利息,損害金と指定して支払っても,制限超過部分に対する指定は無意味であり,結局その部分に対する指定がないのと同一であるから,元本が残存するときは,民法491条の適用によりこれに充当されるものといわなければならない。

本法1条,4条の各2項は,債務者において超過部分を任意に支払ったときは,その返還を請求することができない旨規定しているが,それは,制限超過の利息,損害金を支払った債務者に対し裁判所がその返還につき積極的に助力を与えないとした趣旨と解するを相当とする。

また,本法2条は,契約成立のさいに債務者が利息として本法の制限を超過する金額を前払しても,これを利息の支払として認めず,元本の支払に充てたものとみなしているのであるが,この趣旨からすれば,後日に至って債務者が利息として本法の制限を超過する金額を支払った場合にも,それを利息の支払として認めず,元本の支払に充当されるものと解するを相当とする。

更に,債務者が任意に支払った制限超過部分は残存元本に充当されるものと解することは,経済的弱者の地位にある債務者の保護を主たる目的とする本法の立法趣旨に合致するものである。右の解釈のもとでは,元本債権の残存する債務者とその残存しない債務者の間に不均衡を生ずることを免れないとしても,それを理由として元本債権の残存する債務者の保護を放擲るような解釈をすることは,本法の立法精神に反するものといわなければならない。

<評釈>
本判決は,昭和37年の大法廷判決(最大判昭和37年6月13日)をわずか2年後に変更した異例の判例ですが,2年間の間に裁判官の交代があり,制限超過利息の元本充当を否定した昭和37年判決に付された反対意見に賛同する裁判官が多数派となったことによるものと言われています。

本判決により,利息制限法所定の制限を超過する利息の元本充当が認められることになり,その後の過払い金返還請求を容認する判例(なお,本判例の時点では,元本消滅後の不当利得返還請求は認められていませんでした)と相まって債務者保護への道が大きく開かれることとなりました。

経済的弱者の地位にある債務者保護という利息制限法の立法趣旨に立ち返って条文解釈を行ったものであり,大多数の学説も一致して本判決を支持しました。

最大判昭和43年11月13日

判示

思うに,利息制限法1条,4条の各2項は,債務者が同法所定の利率をこえて利息・損害金を任意に支払ったときは,その超過部分の返還を請求することができない旨規定するが,この規定は,金銭を目的とする消費貸借について元本債権の存在することを当然の前提とするものである。けだし,元本債権の存在しないところに利息・損害金の発生の余地がなく,したがって,利息・損害金の超過支払ということもあり得ないからである。この故に,消費貸借上の元本債権が既に弁済によって消滅した場合には,もはや利息・損害金の超過支払ということはありえない。

したがって,債務者が利息制限法所定の制限をこえて任意に利息・損害金の支払を継続し,その制限超過部分を元本に充当すると,計算上元本が完済となったとき,その後に支払われた金額は,債務が存在しないのにその弁済として支払われたものに外ならないから,この場合には,右利息制限法の法条の適用はなく,民法の規定するところにより,不当利得の返還を請求することができるものと解するのが相当である。

<評釈>
昭和29年制定の利息制限法1条2項は,明治10年制定の旧利息制限法下における判例理論を踏襲した形で,「債務者は,前項の超過部分を任意に支払ったときは,同項の規定にかかわらず,その返還を請求することができない。」と規定していた(現在は削除されています)ため,債務者が利息制限法所定の制限を超過する利息を支払った場合も,その返還を請求することはできないと考えられていました。

そのような状況下で,利息制限法による利率の制限は事実上無力化していましたが,本判例は,高利金融から消費者を保護するとの利息制限法の立法趣旨に立ち返り,解釈によって超過利息の返還請求を認める立場を明らかにしました。

本判例の確立した法理は,昭和58年の貸金業規制法の制定により,立法的に部分的修正が加えられることとなりましたが,現在でも生き続けています。

横飛ばし計算

最判平成15年7月18日

継続的な金銭消費貸借取引において,同一の借主・貸主の間で,複数の取引が並行して行われている場合があります。そのような場合において,併存する取引のうち一つに過払い金が発生した場合,その過払い金を他の取引の残債務に充当できるかという問題(いわゆる「横飛ばし計算」の問題)があります。

この問題に関しては,最高裁平成15年7月18日判決(民集57巻7号895頁)が明確に判示しています。

すなわち,同判決は「同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主が一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務に充当され,当該他の借入金債務の利率が利息制限法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができない。」と判示しています。

民法489条及び491条は,「債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において,弁済として提供した給付がすべての債務を消滅させるのに足りない場合」についての弁済充当方法について規定していますが,この最高裁平成15年7月18日判決は,その趣旨を過払い金が発生した場合にまで及ぼしたものと評価できます。

判例の文脈からも明らかであるとおり,上記判例の言う「充当」は法定充当であって,「充当に関する特約」というのは,民法488条に規定されている充当指定に関する当事者間の特約を意味しています。後掲最判平成19年6月7日,同最判平成19年7月19日及び同最判平成20年1月18日の言及する「過払金充当合意」を意味するものではありません。すなわち,「充当指定」と「充当合意」とは全く異なる概念であることが分かります。

しかしながら,この問題については,どういうわけか「過払金充当合意」の有無によって判断すべきと考えている下級審の裁判官が多数いるように見受けられます。

おそらく,最高裁判例の射程について誤解が生じているものと思われますが,今一度,最高裁平成15年7月18日判決の趣旨に立ち返るべきであると考えます。

※「民集」は,最高裁判所民事判例集の略です。この判例集に登載された判例は,最高裁調査官の解説がなされ,実務上重要な意味を持つとされています。

取引の一連性

継続的な金銭消費貸借取引において,いったん完済した後,しばらく取引中断期間があって,その後,再度貸付けが行われた場合には,「取引の一連性」が問題となります。

この問題は,いったん債務を完済した後,取引中断期間を経て再度借入れを行った場合,完済によって発生した過払い金を新たな貸付け債務に充当することができるかという問題です。

この問題に関連して,最高裁判例がいくつか出されていますので,これらの判例をどのように解釈するのかが問題となります。
参照すべき最高裁判例は,以下のものです。

  1. 最高裁平成19年2月13日第三小法廷判決(民集61巻1号182頁)
  2. 最高裁平成19年6月7日第一小法廷判決(民集61巻4号1537頁)
  3. 最高裁平成19年7月19日第一小法廷判決(民集61巻5号2175頁)
  4. 最高裁平成20年1月18日第二小法廷判決(民集62巻1号28頁)
  5. 最高裁平成24年9月11日判決第三小法廷判決(民集第66巻9号3227頁)

最判平成19年2月13日

判示

貸主と借主との間で基本契約が締結されていない場合において,第1の貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生し(以下,この過払金を「第1貸付け過払金」という。),その後,同一の貸主と借主との間に第2の貸付けに係る債務が発生したときには,その貸主と借主との間で,基本契約が締結されているのと同様の貸付けが繰り返されており,

  • 第1の貸付けの際にも第2の貸付けが想定されていたとか
  • その貸主と借主との間に第1貸付け過払金の充当に関する特約が存在するなどの特段の事情のない限り

第1貸付け過払金は,第1の貸付けに係る債務の各弁済が第2の貸付けの前にされたものであるか否かにかかわらず,第2の貸付けに係る債務には充当されないと解するのが相当である。

なぜなら,そのような特段の事情のない限り,第2の貸付けの前に,借主が,第1貸付け過払金を充当すべき債務として第2の貸付けに係る債務を指定するということは通常は考えられないし,第2の貸付けの以後であっても,第1貸付け過払金の存在を知った借主は,不当利得としてその返還を求めたり,第1貸付け過払金の返還請求権と第2の貸付けに係る債権とを相殺する可能性があるのであり,当然に借主が第1貸付け過払金を充当すべき債務として第2の貸付けに係る債務を指定したものと推認することはできないからである。

<評釈>
本判決は,基本契約が締結されずに行われた二つの証書貸付け事案について判断したものです。いわゆる完済後再貸付けの事案については,特段の事情がない限り,第1取引に基づいて発生した過払金を,第2取引によって生じた借入金債務に充当することができないことが示されました。

もっとも,「第1の貸付けの際にも第2の貸付けが想定されていた場合」を特段の事情として挙げている点や,過払金の充当を否定する理由づけとして「不当利得返還請求権行使の可能性」「相殺の可能性」を挙げている点を無視することはできません。

また,「一つの借入金債務に係る過払金を他の借入金債務へ充当することが認められるか否かについては,借主の充当指定についての意思解釈の問題である」ということを示したことも重要です。

最判平成19年6月7日

判示

同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,弁済当時存在する他の借入金債務に充当されると解するのが相当である。

これに対して,弁済によって過払金が発生しても,その当時他の借入金債務が存在しなかった場合には,上記過払金は,その後に発生した新たな借入金債務に当然に充当されるものということはできない。しかし,この場合においても,少なくとも,当事者間に上記過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するときは,その合意に従った充当がされるものというべきである。

本件各基本契約に基づく債務の弁済は,各貸付けごとに個別的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,本件各基本契約に基づく借入金の全体に対して行われるものと解されるのであり,充当の対象となるのはこのような全体としての借入金債務であると解することができる。

そうすると,本件各基本契約は,同契約に基づく各借入金債務に対する各弁済金の内制限超過部分を元本に充当した結果,過払金が発生した場合には,上記過払金を,弁済当時存在する他の借入金債務に充当することはもとより,弁済当時他の借入金債務が存在しないときでもその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である。

<評釈>
本判決は,クレジットカード契約(カードローン契約)について判断したものですが,基本契約の中に過払金充当合意が含まれることを認めたものです。

そして,基本契約が締結され,かつ基本契約が解約されていないのであれば,取引の空白期間が何年あろうと発生した過払金は原則として新たな借入金債務に充当されることを確認したものと評価することができます。

本判決の担当調査官も,「本判決の考え方は,同種のカードローン契約についても及ぶほか,基本契約に基づき,継続的に貸付けと返済が繰り返される金銭消費貸借で,債務の返済が借入金の全体に対して行われると解される取引(支払方式をいわゆるリボルビング払いとするものが典型的であるが,これに限られるものではないように思われる)についても及ぶ」と述べています[ジュリスト1346号82頁]。

最判平成19年7月19日

判示

本件各貸付けのような1個の連続した貸付取引においては,当事者は,つの貸付けを行う際に,切替え及び貸増しのための次の貸付けを行うことを想定しているのであり,複数の権利関係が発生するような事態が生ずることを望まないのが通常であることに照らしても,制限超過部分を元本に充当した結果,過払金が発生した場合には,その後に発生する新たな借入金債務に充当することを合意しているものと解するのが合理的である。

上記のように,本件各貸付けが1個の連続した貸付取引である以上,本件各貸付けに係る上告人とAとの間の金銭消費貸借契約も,本件各貸付けに基づく借入金債務について制限超過部分を元本に充当し過払金が発生した場合には,当該過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である。

<評釈>
本判決は,基本契約を締結せずに行われた多数回の金銭消費貸借取引について判断したものです。

基本契約を締結せずに行われる証書貸付けの場合,借換えや貸増しなどの度に別個の契約が成立していると評価することも法形式的には可能であり,最判平成19年2月13日の趣旨からすると,このような場合には,一切過払金の充当を認めないという処理もあり得るところでした。

ところが,本判決は,証書貸付けであっても,借入れと返済が繰り返し行われている場合には,将来の貸付けが想定されているので,1個の連続した貸付取引であると評し,なお過払金を新たな借入金債務に充当する合意があることを認め,過払金充当合意が認められる範囲を拡張したものと評価できます。

最判平成20年1月18日

判示

同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務の各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,過払金が発生することとなった弁済がされた時点においては両者の間に他の債務が存在せず,その後に,両者の間で改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合には,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情のない限り,第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は,第2に基本契約に基づく取引に係る債務には充当されないと解するのが相当である。

そして,

  • 第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間
  • 第1の基本契約についての契約書の返還の有無
  • 借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無
  • 第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況
  • 第2の基本契約が締結されるに至る経緯
  • 第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同

等の事情を考慮して,第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる場合には,上記合意が存在するものと解するのが相当である。

<評釈>
本判決は,要するに「基本契約に基づく取引が完済に至った後,あらためて基本契約が締結された場合」の充当関係について述べたものです。

最判平成19年6月7日及び最判平成19年7月19日は,「基本契約が締結されていないが,事実上1個の取引と言い得る場合」,ないし「同一の基本契約に基づいて再貸付けが行われた場合」には,について判断したものでした。したがって,最判平成19年2月13日の趣旨からすると,別個の基本契約に基づく再貸付けの場合には,理論上「過払金の充当を一切認めない」という処理もあり得たところでした。

ところが,本判決は,別個の基本契約に基づく再貸付けの場合でさえも,一定の場合には過払金の充当が認められることを明らかにしました。すなわち,過払金の充当が認められる範囲を一層拡張したという積極的意義を有するものと理解すべきでしょう。

最判平成24年9月11日

判示

一般的には,無担保のリボルビング方式の金銭消費貸借に係る基本契約(以下「第1の契約」という。)は,融資限度額の範囲内で継続的に金銭の貸付けとその弁済が繰り返されることが予定されているのに対し,不動産に担保権を設定した上で締結される確定金額に係る金銭消費貸借契約(以下「第2の契約」という。)は,当該確定金額を貸し付け,これに対応して約定の返済日に約定の金額を分割返済するものであるなど,第1の契約と第2の契約とは,弁済の在り方を含む契約形態や契約条件において大きく異なっている。

したがって,上記イの場合(注:同一の貸主と借主との間で無担保のリボルビング方式の金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引が続けられた後,改めて不動産に担保権を設定した上で確定金額に係る金銭消費貸借契約が締結された場合)において,第2の契約に基づく借入金の一部が第1の契約に基づく約定残債務の弁済に充てられ,借主にはその残額のみが現実に交付されたこと,第1の契約に基づく取引は長期にわたって継続しており,第2の契約が締結された時点では当事者間に他に債務を生じさせる契約がないことなどの事情が認められるときであっても,

  • 第1の契約に基づく取引が解消され第2の契約が締結されるに至る経緯
  • その後の取引の実情

等の事情に照らし,当事者が第1の契約及び第2の契約に基づく各取引が事実上1個の連続した貸付取引であることを前提に取引をしていると認められる特段の事情がない限り,第1の契約に基づく取引と第2の契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価して,第1の契約に基づく取引により発生した過払金を第2の契約に基づく借入金債務に充当する旨の合意が存在すると解することは相当でない。

<評釈>
本判決は,いわゆる不動産担保切替の事案について,最高裁が判断を示したものです。
最高裁は,不動産担保切替の事案の場合も,最判平成20年1月18日の基準によって判断するとの立場を明確にしました。

その上で,無担保による取引に基づいて過払金が発生した後,不動産担保を設定して(極度額方式のリボルビング取引ではなく)1回限りの確定額を貸し付け,その後は追加借入れをすることなく毎月分割返済のみを継続している事案については,リボルビング方式による無担保取引とそうではない不動産担保取引との契約内容が大きく異なっていることを理由に,取引の一連性を否定しました。

一方,(本判決は明言していないものの)不動産担保取引がリボルビング方式である場合には,無担保取引と不動産担保取引との基本的な相違は,担保権設定の有無のみですので,通常は取引の一連性を肯定することになるものと思われます。

なお,本判決には田原睦夫裁判官による補足意見が付されています。

悪意の受益者

過払い金請求をするに当たって,「取引の一連性」と並んで頻繁に問題となる争点には,被告貸金業者が「悪意の受益者」に当たるか否かというものがあります。

言い換えると,「被告貸金業者が利息制限法違反の利息を受け取るに際して,旧貸金業法43条1項(いわゆる「みなし弁済規定」)の要件を充たさないことについて『悪意』(知っていた)といえるか」という問題です。

この問題を検討するに当たって,必ず知っておかなければならない最高裁判例には,以下のものがあります。

  1. 最高裁平成19年7月13日第二小法廷判決・民集61巻5号1980頁
  2. 最高裁平成21年7月10日第二小法廷判決・民集63巻6号1170頁
  3. 最高裁平成23年12月1日第一小法廷判決・判例タイムズ1364号72頁

最判平成19年7月13日

判示

貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定される。

貸金業法43条1項の適用があるとの認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるというためには,

  • 上記認識に一致する解釈を示す裁判例が相当数あったとか,
  • 上記認識に一致する解釈を示す学説が有力であった

というような合理的な根拠があって上記認識を有するに至ったことが必要である。

<評釈>
不当利得における「悪意」を認定するには,法律上の原因のないことを基礎付ける事実の認識があったことが必要です。
しかし,利息制限法1条1項の所定の制限利率を超えた利率(以下,「制限超過利率」という。)で貸付けをすれば,その制限利率を超える部分の利息の支払いは無効ですので,制限超過利率で貸付けをしている事実を認識していればそれだけで悪意といえるのが通常です。

最高裁も,貸金業者は,みなし弁済規定(貸金業法43条1項)の「適用がない場合には,制限超過部分は,貸付金の元本があればこれに充当され,残元本が完済になった後の過払金は不当利得として借り主に返還すべきものであることを十分に認識している」と判示しています。

仮に貸金業法43条1項の適用が認められたとしても,制限超過利率で貸付けをした事実の認識が失われるわけではありません。

したがって,本来,制限超過利率による貸付けを行っていた貸金業者が悪意の受益者に当たるか否かは,いわゆる違法性の錯誤の問題に過ぎず,「法律の不知は許さず」というのが法解釈の大原則である以上,「みなし弁済の適用があるとの認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情」が存在すると評価するためには,貸金業法43条1項が高度な蓋然性を持って適用されると信じたこと(すなわち,自己の行為が適法であると確信したこと)に全く無理がないと認めるに足りる事情が存在すると認められなければならないといえます。

以上によると,上記最高裁判例の示した,「上記認識に一致する解釈を示す裁判例が相当数あったとか,上記認識に一致する解釈を示す学説が有力であったというような合理的な根拠」とは,

  • 「貸金業者の解釈に合致する裁判例ないし学説がある程度存在した」とか
  • 「監督官庁が黙認していた」

というような事情では到底足りないというべきであり,

  • 貸金業者の解釈に合致する裁判例ないし学説が大勢を占めていた」とか,
  • 監督官庁が公的かつ明示的に適法であると認めていた

というような事実が必要というべきでしょう。

最判平成21年7月10日

判示

期限の利益喪失特約のもとでの利息制限法所定の制限を超える利息の支払の任意性を初めて否定した最高裁平成18年1月13日第二小法廷判決・民集60巻1号1頁の言渡し日以前にされた制限超過部分の支払について,貸金業者が同特約のもとでこれを受領したことのみを理由として当該貸金業者を民法704条の「悪意の受益者」と推定することはできない

<評釈>
最判平成18年1月13日判決は,期限の利益喪失特約の下での利息制限法所定の制限を超える利息の支払いには任意性がない旨判示したものですが,最判平成21年7月10日は,期限の利益喪失特約下での制限超過利息の支払いについては,そのことのみでは,貸金業者を「悪意の受益者」であると推定することはできないと判示したものです。

この判例は,期限の利益喪失特約の下での制限超過部分の支払いについての任意性の有無の判断が,法令の明文の規定に基づくものではなく,専ら解釈に委ねられている問題であったことを前提としているものと考えられます。

これに対し,貸金業法17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)及び同法18条1項所定の事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)の交付の有無は,法令の明文の規定の解釈問題であり,本来,貸金業者はその正しい解釈に基づいて行動すべきと言えます。したがって,現在からみれば誤った解釈に基づいて行動していた場合にそれをやむを得ないとするには,少なくとも,貸金業者の主張に一致する解釈が実務上及び学説上通説とされていて,これと異なる解釈をすることを期待することはできなかったというような極めて特殊な事情が必要というべきです。

そして,多くの貸金業者は,適法な17条書面及び18条書面の交付を怠っていましたので,本判例が,貸金業者が悪意の受益者であるか否かの判断に与える影響は極めて限定的であるといえます。

最判平成23年12月1日

判示

貸金業法17条1講6号及び貸金業法施行規則13条1講1号チが17条書面に返済期間,返済金額等の記載をすることを求めた趣旨・目的は,これらの記載により,借主が自己の債務の状況を認識し,返済計画を立てることを容易にすることにあると解される。

リボルビング方式の貸付けがされた場合において,個々の貸付けの時点で,上記の記載に代えて次回の最低返済額及びその返済期日のみが記載された書面が17条書面として交付されても,上記の趣旨・目的が十全に果たされるものではないことは明らかである反面,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載をすることは可能であり,かつ,その記載があれば,借主は,個々の借入れの都度,今後,追加借入れをしないで,最低返済額を毎月の返済期日に返済していった場合,いつ残元利金が完済になるのかを把握することができ,完済までの期間の長さ等によって,自己の負担している債務の重さを認識し,漫然と借入れを繰り返すことを避けることができるのであるから,これを記載することが上記の趣旨・目的に沿うものであることは,平成17年判決(注:最判平成17年12月15日)の言渡し日以前であっても貸金業者において認識し得たというべきである。

そして,平成17年判決が言い渡される前に,下級審の裁判例や学説において,リボルビング方式の貸付けについては,17条書面として交付する書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がなくても貸金業法43条1項の適用があるとの見解を採用するものが多数を占めていたとはいえないこと,上記の見解が貸金業法の立法に関与した者によって明確に示されていたわけでもないことは,当裁判所に顕著である。

上記事情の下では,監督官庁による通達や事務ガイドラインにおいて,リボルビング方式の貸付けについては,必ずしも貸金業法17条1項各号に掲げる事項全てを17条書面として交付する書面に記載しなくてもよいと理解し得ないではない記載があったとしても,貸金業者が,リボルビング方式の貸付けにつき,17条書面として交付する書面には,次回の最低返済額とその返済期日の記載があれば足り,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がなくても貸金業法43条1項の適用が否定されるものではないとの認識を有するに至ったことがやむを得ないということはできない。

そうすると,リボルビング方式の貸付けについて,貸金業者が17条書面として交付する書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載をしない場合は,平成17年判決の言渡し日以前であっても,当該貸金業者が制限超過部分の受領につき貸金業法43条1項の適用があるとの認識を有することに平成19年判決(注:最判平成19年7月13日)の判示する特段の事情があるということはできず,当該貸金業者は,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである。

<評釈>
貸金業者が行っていたリボルビング方式の貸付けにおいて,多くの貸金業者は,長期間に渡って,借主に交付しなければならない17条書面に「次回の最低返済額とその返済期日」のみ記載しており,法律上要求される「確定的な返済期間,返済金額等の記載(に準ずる記載)」を行っていませんでした。

貸金業者側は,これについて,「最判平成17年12月15日判決が言い渡される前は,下級審の裁判例や学説において,リボルビング方式の貸付けについては,17条書面として交付する書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がなくても貸金業法43条1項の適用があるとの見解を採用するものが多数あった」などと主張して,最判平成19年7月13日判決のいう「特段の事情」があると主張していました。

しかし,各種の文献・判例雑誌・論文等を検討してみても,「下級審の裁判例や学説において,リボルビング方式の貸付けについては,17条書面として交付する書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がなくても貸金業法43条1項の適用があるとの見解を採用するものが多数あった」などという事実は全く確認できません。

本判決は,そのような事実が無かったことを「裁判所に顕著な事実」であると認定した上で,上記のような場合において,最判平成19年7月13日のいう「特段の事情」は認められない旨判示したものあり,妥当な判決であると評価できます。

貸付残高の主張立証責任

過払い金請求をするに当たって,貸金業者に対し,取引履歴の開示を請求しても、古い取引履歴については廃棄したとして開示されない場合があります。

このような場合、開示された取引履歴の冒頭にその当時の貸付残高が記載されていることがあり、借主としては,「そのような貸付残高は利息制限法に違反する約定利率に基づくものであるから認められない」として,その当時の貸付残高をゼロであったものとして計算する方法があります。しかし,その場合,その当時の貸付残高の主張立証責任を貸金業者と借主のいずれが負うべきかという点が問題となります。

この論点に関する公刊物搭載判例は多くありませんが,次の名古屋高裁金沢支部判決(判例タイムズ1310号157頁)が参考となります。

名古屋高裁金沢支部平成21年6月15日判決

判示

本判決は,

「被控訴人に取引履歴開示義務違反があり,その結果,控訴人が被控訴人の控訴人に対する貸付け(貸付年月日,貸付金額,弁済期,利息の約定を含む。)の事実を主張立証できない場合にまで,控訴人にその主張立証責任を負わせるのは,相当でない。そこで,このような場合には,控訴人(注:借主)は,被控訴人に対する不当利得返還請求の要件事実として,控訴人から被控訴人への金員交付(弁済)のみを主張立証すれば足り,これを争う被控訴人(注:貸金業者)において,抗弁として,この金員の交付(弁済)が法律上の原因に基づくこと,すなわち,被控訴人の控訴人に対する貸付け(貸付年月日,貸付金額,弁済期,利息の約定を含む。)及びこの貸付けに基づく弁済としてこの金員の交付が行われたことの主張立証責任を負うものと解するのが相当である。」

とした上で,貸主が負担する取引履歴(業務帳簿)の開示義務について,

「この業務帳簿(貸金業法19条)は,商法19条3項,会社法施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成17年法律第87号)による改正前の商法36条,会社法432条に定める営業(事業)に関する重要な資料」に該当するから,貸金業者は,帳簿閉鎖のときから,10年間保存義務を負う。貸金業者と債務者との間で継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が締結され,これに基づき金員の借入れと返済が繰り返された場合,債務者の貸金業者に対する過払金返還請求権の消滅時効は,特段の事情がない限り,上記取引が終了した時から進行するから,本件取引による控訴人の被控訴人に対する過払金返還請求権の消滅時効は,本件取引における控訴人の最終弁済日の平成12年11月15日から進行するものであり,被控訴人は,少なくとも同日から10年間は,本件取引に関する業務帳簿の保存義務を負うというべきである。そして,控訴人の取引履歴開示要求が濫用と認められるような特段の事情を認めるに足りる証拠は存在しないから,仮に被控訴人が本件取引未開示部分につき既に取引履歴を消去していたとしても,被控訴人が本件取引未開示部分の開示に応じないことは,取引履歴開示義務に反するものである。」

と判示しました。

<評釈>
そもそも貸金業者に取引履歴開示義務違反がある場合にまで,貸付の事実を借主に主張立証させるのは公平でないとの観点から,貸金業者に取引履歴開示義務違反がある場合には,過払い金返還請求訴訟において,借主は弁済の事実のみを主張立証すれば足りると判示したものです。つまり,この場合,ある一定時点における残高の主張立証責任については貸金業者が負うことになり,借主は弁済の事実のみ主張立証すればよいということになります。事案の本質を突いた公正な判決であると評価できます。

もし「取引履歴がない」というだけで,残高の主張立証責任を借主に負わせるならば,実際に借主がそのような主張立証を行うことは通常困難であることから,貸金業者に不当な利益を与えることとなってしまいます。利息制限法の上限利率を超過した約定利率で取引していたことは明らかであるのに,それを前提とした過払い金の返還しか認められないことになるからです。そうであれば,古い履歴も含めて誠実に開示している貸金業者に比べて,「古い履歴は存在しないから開示しない」という不誠実な対応をしている貸金業者が優遇されることになってしまい,著しく正義・公平に反すると言えるでしょう。

貸付残高の主張立証責任に関する弊事務所の見解

ある一定時点における貸付残高については貸主において主張立証責任を負う。

 これに対して,下級審の裁判実務においては,「ある一定時点における貸付残高については借主において主張立証責任を負う」との前提に立ち,取引履歴の冒頭貸付残高をゼロとする借主の主張について,その当時の貸付残高がゼロであったことの主張立証責任を借主に負わせる例が散見されます。しかし,そのような見解は妥当なものとは思われません。以下,その理由の詳細を述べます。

貸付残高の主張立証責任を貸主が負うと解すべき理由

1 不当利得返還請求訴訟の要件事実

 過払金返還請求訴訟は,不当利得返還請求訴訟の一種であるところ,不当利得返還請求の請求原因事実は,①原告の損失,②被告の利得,③損失と利得との因果関係,④利得が法律上の原因に基づかないことである。

2 「法律上の原因に基づかないこと」の意義

⑴ 「法律上の原因に基づかないこと」の主張立証責任については,利得者が主張・立証すべきであるというのが最高裁判例の立場であり(最判昭和59年12月21日・集民143号503頁),この立場を前提とすべきである。

⑵ 「法律上の原因に基づかないこと」の意義については,従来から「形式的・一般的には正当視される財産的価値の移動が実質的・相対的には正当視されない場合」(我妻榮「債権各論(下一)(民法講義Ⅴ4)」)などと説明されており,いずれにせよ当事者間の法律関係の全体的な評価により判断されるべきことであると考えられてきた。すなわち,「法律上の原因に基づかないこと」は,総合的な法律判断として存否の判断が行われる要件であるから,「消極的事実」ではなく,法的価値判断を要する評価概念である

⑶ ところで,「法律上の原因に基づかないこと」という要件については,これを消極的事実と捉える見解と,法的評価概念と捉える見解との対立がある。しかし,仮に「法律上の原因に基づかないこと」を消極的事実であると捉えてしまうと,「法律上の原因に基づく」と言えるあらゆる事実の不存在の主張立証を利得者に課すこととなってしまうが,これは「悪魔の証明」を利得者に課するものであって妥当ではない。

3 過払金返還請求訴訟の要件事実

⑴ では,過払金返還請求訴訟において,利得者たる借主は,「法律上の原因に基づかないこと」の主張立証のため,いかなる具体的事実を主張立証すべきか。
 前述のとおり,「法律上の原因に基づかないこと」は評価概念であり,総合的な法律判断によって存否が判定されるものであるから,同要件の主張立証責任の具体的内容は,不当利得法理を支配する正義・衡平の観点からも正当視し得るものでなくてはならない。そうだとすると,「法律上の原因に基づかないこと」という要件に関する具体的な主張立証責任を検討するにおいても,過払金が「利息制限法という借主保護を目的とした強行法規に違反する不法な利益」であるという基本的な視座を踏まえることも必要である。

⑵ 過払金返還請求訴訟において,過払金額を確定するために必要な「事実」は,貸付額及び貸付年月日,返済額及び返済年月日,法定限度利率を上回る約定利率の合意の各事実のみであり,これらの事実が明らかとなれば,裁判所による事実認定ないし法的評価を経ることによって過払金額は自動的に確定されることになる。
 したがって,これらの事実のうち,どの事実について借主側において主張立証すれば,過払金返還請求権の発生を基礎付けられるかということを検討することになるところ,借主は,過払金返還請求訴訟の請求原因事実として,①利息制限法違反の約定利率の合意を含む金銭消費貸借契約の締結,及び②かかる金銭消費貸借契約に基づく弁済額及び弁済年月日の2点を主張立証すれば足りると解すべきであり,上記各事実の主張立証によって,①利得,②損失,③因果関係,④法律上の原因に基づかないこと,といった不当利得返還請求権の請求原因事実に関する主張立証が尽くされるものと解すべきである。
 一方,借主から貸主に対して交付された金員のうち,いかなる部分が貸付金に対する有効な弁済となるのか,そして,借主によって主張立証された弁済金がどのように充当されるのかという点については,貸主において主張立証すべき抗弁である。
 そしてこの場合,貸主は,貸付金額及び貸付年月日等を主張立証することで足りる。すなわち,弁済金が貸付金に対してどのように充当されるかについては,法定充当規定の適用ないし法的評価により判断されるべき問題であるから,抗弁事実としては,貸付金額及び貸付年月日のみで足りるのである。
 したがって,継続的金銭消費貸借取引におけるある一定時点の貸付残高については,貸主において主張立証すべきこととなる(実際には,貸主において貸付金額及び貸付年月日を主張立証し,借主において弁済額及び弁済年月日を主張することで,自動的にある一定時点の貸付残高は確定されることになる。)。

⑶ 上記のように解した場合,貸主より開示された取引履歴の冒頭に記載された貸付残高を無視することになるため,「何となく」借主に不当な利益を与えることになるようにも見えるが,実際の取引履歴が明らかでない場合,実際にはその時点で既に過払状態となっている可能性も否定できないのであるから,利益衡量上も妥当である。
 また,貸金業法によって帳簿保管を義務付けられている貸主において,貸付金額及び貸付年月日の主張立証を行うことは,借主がこれを行う場合に比してはるかに容易である。
 そもそも,利息制限法所定の制限利率を超過する利率での貸付を行っている貸金業者は,後の過払金返還請求に備えて,みなし弁済規定の適用を受け得る業務体制を整備していなくてはならず,そのためには,顧客に対して交付した貸金業法17条及び18条所定の法定書面の写しを全て保管しておく必要があるから,本来,取引履歴の存否を問うまでもなく,17条書面及び18条書面の写しを保管しておくべきであり,これらの書面によって取引内容を確定させることは容易である。貸金業法17条及び同18条が,貸金業者に対し,罰則を課してまで法定書面の交付を強制している趣旨は,貸主・借主間における取引内容についての紛争を防止するためなのである。したがって,取引履歴や17条書面及び18条書面の写しを保管していないことによる不利益は,利息制限法違反という法令違反行為を漫然と行ってきた貸金業者において全て甘受すべきものである。

⑷ 以上のとおり,過払金返還請求権は,制限超過利息の収受という貸金業者が絶対に犯してはならない利息制限法違反という法令違反行為により発生したものなのである。そして,貸金業者は,旧貸金業法43条1項によるみなし弁済規定の適用を受けられる前提で制限超過利息を収受し続けてきたのであり,みなし弁済規定の適用を受けるためには,全ての取引に関する法17条書面及び18条書面の写しを訴訟において証拠として提出することが不可欠なのである。取引履歴の欠如に起因する紛争は,すなわち貸金業者が法17条書面及び18条書面の写しを提出し得る体制を整備してこなかったことに起因するものであり,取引履歴の保存義務の存否に関わらず,本来,借主に対して交付した法17条書面及び法18条書面の写しを備え付けていなければ,そもそも制限超過利息の収受を正当化される余地は無いということである。中途半端な取引履歴に記載された「ある一定時点の貸付残高」は,本来,当該時点以前の全ての取引に関する法17条書面及び法18条書面の交付に関する主張立証を前提とした法43条1項の適用を前提とする金額に過ぎない。そもそも,それ以前の貸付行為自体が立証されていない以上,かような数字は「落書き」も同然である。
 したがって,中途半端な取引履歴の開示により,制限超過利息の返還を免れることは,利息制限法の脱法行為そのものであって,断じて許されるものではない。
 以上のとおり,継続的金銭消費貸借取引における「ある一定時点の貸付残高」の主張立証責任を借主に負わせる見解は,決して正義・公平を旨とする「法の番人」であるべき裁判所が採用すべきものではない。

⑸ これに対して,「法律上の原因に基づかないこと」の主張立証責任を借主が負っていることから,直ちに継続的金銭消費貸借取引における「ある一定時点の貸付残高」を借主が主張立証すべきであるとする見解は,「法律上の原因に基づかないこと」を消極的事実(貸付残高が存在しないという事実)と捉えたことによる誤解及び利息制限法及び貸金業法の構造に関する誤解に基づくものである。
 さらに,ある一定時点の貸付残高(貸付残高の不存在)についての主張立証責任を借主に負わせようとする発想の根本には,「法律上の原因に基づかないこと」という要件と「利得」要件との混同があり,「過払金の発生」をもって「利得」と捉えるという誤解があるように思われる。

⑹ 「過払金」は,貸金業者とその顧客との継続的な金銭消費貸借取引において,「貸金業法43条1項の要件を充足する場合には貸金業者の顧客に対する貸付債権が認められるが,同条の適用がない場合には,利息制限法所定の制限利率に基づく引き直し計算が行われ,その結果,過払金が生じた場合には,貸金業者がその返還義務を負う」という性質のものであって,「債務の残存」と「過払金の発生」とは表裏一体の関係にある。
 仮にある一定時点の貸付残高について,貸主主張の残高を前提とする場合には残債務があるが,ゼロとすれば過払いとなっているという事案において,借主側から過払金返還請求訴訟が提起され,貸主側から反訴として貸金請求訴訟が提起された場合,ある一定時点の貸付残高の主張立証責任は貸主側ないし借主側のいずれが負うべきなのであろうか。「同一訴訟において,同一の要件事実に関する主張立証責任は,同一当事者が負う」ということは,主張立証責任の分配に関する大原則である。すなわち,債務が残存しているのか過払金返還請求権が発生しているのかによって,同一の要件事実(ある一定時点の貸付残高)に関する主張立証責任の所在を別異に解することは,主張立証責任の分配に関する大原則に反する。そして,債務が残存している場合(貸金請求)において,「ある一定時点の貸付残高」についての主張立証責任を貸主が負うことは明らかであるから,過払金が発生している場合(過払金返還請求)においても,同様に解すべきである。
 以上のとおり,過払金返還請求訴訟において,ある一定時点の貸付残高についての主張立証責任を借主が負うとする見解がいかに不合理なものであるかということは一目瞭然なのである。

4 結論

 したがって,債務が残存していようが,過払金が発生していようが,ある一定時点における貸付残高についての主張立証責任を貸主が負うべきことは,論理的必然である。

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